外資系コンサルティング会社、外資系消費財メーカーを経て、リヴァンプに入社。ディレクターとしてアパレル企業、ファーストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
IGPI参画後は、ロジスティクス、メディア、テレコム、広告、製造などの幅広い業界においてグローバル戦略立案・実行支援、クロスボーダーM&Aの支援に従事。
近著に『デジタル・フロンティア 米中に日本企業が勝つための「東南アジア発・新しいDX戦略」』(PHP研究所)、『機能拡張』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
私は日本のバブル期に米国に住んでいたことがあります。当時は“Japan as number one”といわれ、高品質の製品を低価格で販売する日本のメーカーは世界中から尊敬されていました。
その後、大学に入学したときにはバブルが崩壊していて、多くの日本企業が不振にあえいでいました。大学で私は「日本企業の国際人的資源管理」という分野を専攻し、東南アジアの日本企業を訪問する機会に恵まれました。訪問した企業の経営者は、1円でも安く製造し、現地での販売機会を拡大することに心血を注いでいました。そのような経営者の力になれればと思い、経営コンサルタントになることを志しました。
「自分の仕事を定義しないこと」と「逃げないこと」を意識してきました。それぞれ新人時代の失敗から学んだものです。
新人時代、さまざまな雑用をこなしていたときに、「これは経営コンサルタントの仕事ではない」と先輩コンサルタントに不満を漏らしたことがあります。先輩からは、「クライアントのためになることなら、なんでもやるんだよ」と叱られました。それからは自分の仕事を定義せず、どんな仕事でも断らずに挑戦し、結果として幅広い仕事を経験する機会に恵まれてきました。
また、新人時代にあるプロジェクトで、チームリーダーを任されたときのことです。分からないことだらけの中でチームを引っ張る立場に置かれたプレッシャーに耐えかねて、適当な理由を見つけてその場を逃げ出しました。しかし、複雑な問題は分解して取り組むという方法を先輩コンサルタントから教わり、それからは逃げ出すのではなく問題に向き合うことができるようになりました。
逃げる理由はいくらでも見つかりますし、周りも慰めてくれます。しかし、成長や成功は逃げないで難局を乗り越えた先にしかありません。難局に直面したとしても、それを分解してみれば、実は大したことはありません。大変なことというのは、2つ以上の簡単なことが組み合わさってそのように見えているだけのことがほとんどです。
イノベーションは「創造的破壊」ともいわれ、それまでにあったものを破壊して新たなものを創り出すことだと思われがちです。実際、日本の地方都市を見てみると個人経営のお店が姿を消し、外食チェーンやコンビニチェーンに置き換わっています。結果、社会に存在していた地域コミュニティが破壊されてしまいました。
しかしデジタル技術の進歩により、たとえば私が住んでいる東南アジアでは、個人経営のパパママショップが破壊されるどころか活性化しています。消費者がスマホアプリから商品を注文すれば30分以内にパパママショップから家に届きますし、パパママショップは在庫が不足したらB2B向けのEコマースで発注することもできます。
デジタル革命によって、一人ひとりができることの幅が圧倒的に広がりました。誰でも動画コンテンツを世界中に配信することができますし、スタートアップで電気自動車を製造することもできます。すでに世の中にある技術やサービスを活用し、人や組織が持つ機能を拡張することよって生まれるイノベーションは「創造的破壊」ではなく「創造的統合」であり、持続可能な社会の実現へのカギを握ります。
一個人、一企業では解決できない問題であっても、他者とのパートナーシップによる機能拡張によって、前進することが可能です。自分たちの強み知り、それを最大限表現するために必要な機能を得るべく世界中の人材と連携し、新しい価値を生み出していくことが極めて重要です。
たとえばデジタル技術を活用して東南アジアで農業や医療などの社会問題解決に取り組むなど、私たちが展開している経営コンサルティングや投資活動は、このような考えに基づいて行われています。
「ゴールを明確にして、時間を無駄にせずに生きよう!」と言われることが多いかと思います。人生の時間が有限である以上、その通りだと思います。
しかし、経済的に成功することだけがゴールではないということに留意してもらえたらと思います。「どうやって自然環境を守り地球と共存していくのか」「どうやって人間らしく生きてコミュニティを復活させるのか」といったことも、私たちにとって重要なテーマとなっています。
経営においても、世界的なCSRの第一人者であるジョン・エルキントンがかつて提唱していたように3つのPであるProfit(利益)、Planet(地球)、People(人間)のすべてに留意した経営の実践が重要だと考えています。
今はあらゆるものが情報化されていて、あまり考えずにそれらを消費してしまっていることも多いと思います。また、私たちはデジタル技術を手にしたことで、多くのことを効率化してきました。近い将来、これまでのように働かなくても、同じ収入を得ることができるようになるかもしれません。
そうなったときに、何も考えずにパーソナライズされたスマホのプッシュ通知に従って知らず知らずのうちに時間と資金を消費するだけの人生を過ごすのか、自らの意志で人生を設計し、自身の機能を拡張し続け人間らしく生きるのか、どちらの選択肢を選ぶかは皆さん次第だと思います。